YNS/山五十嵐こども園

「しぜんに、しぜんと」を理念とするこども園。敷地は新潟市西区五十嵐3の町西。
村の小道をくねくねと抜けた先の自然豊かな砂丘の頂に位置する木造平家建の園は、歩を進める毎にパラパラとシーンやニッチを展開し子供達に多様な拠所を提供する。
保育室、更には園舎、園庭を越えて周辺地域までを一つの連続体とした「大きな保育環境の構築」、子供達の学びと遊びに村全体で寄添い、
そして子供達が村に活性を育む、そんな「相互に見守る関係の構築」を目指した。

「この園、誰のため、何のため?」をテーマとして、保育の研究者、保育士、父母、地域住民を巻込みワークショップを重ね、少子高齢化の時代に、
衰退が進む郊外の敷地で園を建替することの意味について、子供達のため村のためとなる園のあり方について対話を積み上げ、
「村のように園をつくり、園のように村をそだてる」をビジョンとして定めた。

子供たちが保育室の外に出ていき、園庭やまちにあふれる遊び場を活用することと同時に、こども園を地域の交流の場として解放し、
村の人々にこども園に来てもらう「境界の弱い拡張するこども園」を提案。
子供達に多様な学びと遊びが生まれる環境作りを目的に、保育をひとつの室だけではなく他の室に開き、屋内を自然あふれる屋外に開き、こども園を村に開き、
それぞれの「境界」をいかに溶かすのかが課題となった。

大きな材が運べない敷地条件のもと、現場で小さな材を組み合わせた木製トラスを作り、大きな保育空間を作った。
頂点が上を向いたトラスと下を向いたトラスを組み合わせ、トラス屋根の連続を作っている。
トラスの交点を間仕切り壁の上からずらして載せることで、各室ごとに表情の異なる環境を作り出すと同時に、
間仕切り壁の上部に抜けを作り、それぞれの環境を緩やかにつなげている。
保育室-縁側-土間-園庭を大きな屋根で繋ぎ緩い連続を作り、屋内外を横断する学びと遊びを支える。
村の特徴であるくねくねとした細い道を園舎に引込み奥まで続く外廊下とすることで、村の延長に子供達の笑顔が立ち現れるように計画。
外廊下では、くねくねとした道がひだのような空間を作り出し、子供達の拠り所となっている。

こども園をきっかけとして交流を広げるために、建物前面に子育て支援室や園前デッキ広場を設け、
地域の農家の朝市やキッチンカーのイベントの場所として活用され、地域活動と園活動を混ぜていく。
また、県産杉を用いた床の下にエアコンと全熱交換器を取り付け、床下全体をチャンバーボックスのようにすることで、子供達に直接気流を当てず、
輻射熱によって身体に働きかけ、学びと遊びに快適な状態を作っている。

開園して暫く経ち、木質木造の園舎が「施設」ではなく「みんなの家」のような温かな環境で保育ができると保育者や保護者から喜びの声をいただいている。
子供達が屋内外に広がる色々な環境を横断的に活用するにつれ、年齢も横断し、異年齢遊びや異年齢の見守りが自然発生的によく見られるようになった。
また、子供達が外にいる時間が長くなり、それを眺める散歩中のおじいちゃんおばあちゃんの姿が増えた。
園舎の軒下では、見送りやお迎えで保護者間の情報交換が行われている。
この「境界の弱いこども園」は子供達の学びと遊びに柔軟性と拡張性を生み、みんなの思い思いに応え、村に新しい日常を作り始めている。
「園を村のように作り、村を園のように育てる」まさにその芽が吹き始めているようだ。





竣工
2021.10
種別
新築
用途
幼保連携型認定こども園
規模
延床1101.5㎡ 建築1586.5㎡
構造
木造
所在
新潟市西区五十嵐3の町西
設計
東海林健+平野勇気 (東海林健建築設計事務所)
構造設計
田中哲也建築構造計画 (担当 田中哲也 橋本琢人)
機械設備設計
CADシステムIPE (担当 本間俊明)
電気設備設計
J・ツカサ設計 (担当 桑野仁司 太古謙一郎)
照明設計
コモレビデザイン (担当 内藤真理子)
施工
廣瀬 (担当 佐藤由明 澤村寛 川瀬純一)
プロジェクトパートナー
佐藤将之 (早稲田大学人間科学部 教授)
撮影
© 藤井浩司(toreal)
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