YGD/越後薬草蒸留所

敷地は多雪地域に指定される新潟県上越市。水路や緑地が一体的に計画された自然豊かで閑静な住宅地のエッジにある。
1980年、クライアント企業はこの地に本社工場を移転し、野草酵素の研究、酵素食品の製造を手がけてきた。
その後1998年に周辺地域が上越アーバンビレッジ整備事業により優良田園住宅地域として開発整備が進められると、本社工場は自然豊かな住宅地のエッジに取り残されるような形となった。
この本社工場の隣地、自然豊かな住宅地には馴染まぬアスファルト舗装をされた大きな駐車場。

そこに、酵素食品製造の発酵過程で発生するアルコールを利活用した、クラフトジン製造のための蒸留所を新.築するということでプロジェクトがスタートした。
敷地を初めて訪ねた際に考えたことは、このアスファルトを剥がし大地と空を繋ぐこと。そして切り離されていた住宅地と既存本社工場とを新しい計画で緩やかに繋ぐこと。

建築は蒸留所となるグランドレベルと回廊ギャラリーの2階をRC造とし、その上にS造のトップルーフを架け3Fを作り、そこに多目的に活用出来るラボを配置する、混構造3F建てとした。
この土地に根ざした酒作りのための蒸留所であることから、建築をすることにより、風土と酒作りの有機的関係性を切ってしまうことを出来る限り避けるために、
四角い箱の4面に低く大きく横長にアーチ開口を開けて、隅4点のみで大地と繋がる建築を提案した。
敷地一杯に段丘と小径で構成する庭を作り、その庭は蒸留所内にも続き広がる。
屋外では段丘にジュニパーベリーなどの植栽を植えて、屋内では同じ段丘上に蒸留器などの設備を配置した。
4隅の支持点もまた、段丘や植栽と同じく一つの庭の要素となることで、この建築に下向きの重力ではなく、上向きの浮力のような軽やかさを与えてくれている。

庭と一体的につながる蒸留所の、1Fから2Fへと抜ける吹抜けの中心に大きな蒸留器を配置し、2Fには壁面に絵画が飾られた回廊を設えた。
回廊からは中心の蒸留器と、クラフトジンの製造過程全体をのぞむことができる。
またこの回廊床は建物4面の面外方向の応力を支持する役割も担う。
そしてさらに階段を登ると、360°に視界が開け、名峰米山から、妙高山までを見渡すことのできる3Fのラボスペースへと繋がる。
3Fの床を支持する外周梁を逆梁としそれを花壇として活用。逆梁により深く支持することで屋根を支える鉄骨柱を90mm角とすることができ、華奢なプロポーションを実現している。
天井には歪ませた鏡面ステンレスを貼り仕上げた。そこへ映り込む、段丘や小径の庭、遠くの夕焼けや山並みは、屋内と屋外を繋ぎ、遠くと近くを繋ぎ、グランドレベルと3階を近しく繋ぐ。
また歪ませた鏡面ステンレスは水面を想わせ、そこに映り込む風景と自身が混ざり合い、あたかも水中に、まさにジンに没入する感覚を生む。

素材もまたこの土地に根差し、グランドレベルの床や段丘の仕上げにはこの土地の土を混ぜ、バーカウンターにはこの土地の山,川、海で採れた石を使ったテラゾー仕上げとした。
8.5mのロングカウンターの山側には妙高山の石を、中心部には関川の石を、海側には直江津海岸の石を採用することでカウンターテーブルそのものを、
この土地の風景の縮図となるようなひとつの庭として設えている。
コンクリート型枠には上越の杉材を採用し、この土地の気候や時間により出来た固有の木目をコンクリート外壁に転写した。
その同じ杉材を隣接する機械室の外壁としても採用することで、杉材のネガとポジが並ぶ新しい杉景色を作った。

土に根ざしたグランドレベルと山並みや空に開けた上階との間で繰り返される移動の中で、より遠くを、そしてより近くを意識化することができ、
全身的に地球との繋がりを強烈に感じることができる、そんな蒸留所を目指した。





竣工
2022.8
種別
新築
用途
蒸留所
規模
248.32㎡
構造
RC造一部S造一部木造
所在
新潟県上越市
設計
東海林健建築設計事務所+嶋田貴之建築設計事務所
構造設計
田中哲也建築構造計画 (担当 田中)
機械設備設計
オヤマツ設計 (担当 中野)
照明設計
TACT(大光電機) (担当 古川)
施工
株式会社吉原組 (担当 市川)
撮影
©藤井浩司 (TOREAL)
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